特集コラム#7:プロデューサー・西尾芳彦から見る楽曲の『アレンジ』について
(2016.12.05 インタビュー・文:大橋純)
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アーティスト:家入レオ |
楽曲:5thシングル『太陽の女神』収録 |
M3『Who's that』 |
——— まずはギターから始まるイントロが印象的ですね。
西尾 「そうですね。『サブリナ』などもそうですが、ある意味で曲の顔とも言えるイントロだと思います。熱を帯びた、じっとしていられないような印象を与えつつ、それでいて幻想的な雰囲気もありますよね。たった8小節そこそこでそういった楽曲の特徴をうまいこと紹介しつつ、スッと歌にバトンを渡す。イントロに求められる要素を全て満たした秀逸なイントロだと思います。」
——— 確かに、曲が始まった瞬間から耳を惹きつけられるものがありますね。このイントロができたエピソードのような話はあるのでしょうか?
西尾 「『Who’s that』はもともと全く違うイントロがついていましたが、締切日ギリギリのところで急きょ変更して欲しいという事になったんです。このイントロはアレンジを担当したコウダイ(三輪コウダイ)が最後の最後、追い込まれて捻り出したものになります。その時点では当然歌詞もfixしていました。なので夏を意識しつつ随分尖った内容の歌詞を踏まえつつ、ライブのステージでどう響くかなどを最大限考えてこのイントロを作ったんだと思います。今聞いても、たった一日でよく考えついたなと思いますね。」
——— イントロを含めた楽曲のアレンジについては西尾先生からアレンジャーの方にはどういったリクエストを出すのでしょうか?
西尾 「アレンジャー(近年はサウンドプロデューサーと呼ばれることも多い)にはギターやピアノ1本で弾き語りしたデモとざっくりした曲のイメージだけ伝えて取り掛かってもらう事がほとんどです。時には具体的にフレーズを口ずさむなどして伝える事もありますが、『Who’s that』に関してはギターの弾き語りのみのデモから作ってもらいました。例えばAメロのバックのギターとベースのフレーズなんかもコウダイが考えたものです。」
——— ここは歌のバックに流れるフレーズでありながらも異様に耳に残りますね。
西尾 「キャッチーで耳に残るものでありながら同時にメロディも引き立たせる、ギリギリのバランスのフレーズですよね。フレーズ自体はシンプルなものかも知れませんが、これはなかなか出てこないと思いますよ。元のデモはギターのコードストロークの弾き語りだったわけですからね。作詞&作曲&アレンジと全てを高い次元で形にするコウダイだからこそ、このメロディにこのアレンジを合わせる事ができたんだと思います。」
——— その後もBメロ、サビ、大サビと、歌もバックのテンション感も目まぐるしく展開していきますね。
西尾 「『Who’s that』は歌詞もそうですが、アレンジの面でもかなり攻めた内容になっていると思います。アレンジに限らずですが、リスナーにどこまで寄り添うか、どこまで突き放すかのさじ加減は難しいところです。Bメロのエレキギターのオブリガートを始めバックの楽器はところどころかなり暴れていますが、それでもうるさくはない楽曲として成り立つギリギリのところを目指しました。」
——— ライブでもかなり盛り上がる楽曲になっていますが、制作の段階からライブは意識して取り組んでいるのでしょうか?
西尾 「もちろんライブは常に念頭に置いて制作しています。サビなどは特にコードの響きよりもリズム主体で作ったメロディで、ライブでの掛け合いなども意識した長めの休符も入れていますね。楽曲としてもこの曲は間違いなくロックの括りですし、その意味では歌詞も振り切っていて、恋愛事ではなく”ヘコタレてないで強く生きるからみんなついて来い!”的な非常にメッセージ性の高いものを目指しました。家入レオの中でも陰の側に当たる楽曲になりますが、耳の肥えた生粋のロック好き、洋楽好きのリスナーにも思いっきり響くように作ったつもりです。」
——— 家入レオさんといえば同世代はもちろん上は五十代、六十代とファン層が幅広い事も有名ですよね。
西尾 「有り難い事ですよね。この曲に限らずバラード、ミディアムテンポのメロウな曲など含め、全ての曲でライブでの聴こえ方は意識しています。どうやったらライブとCD両方で楽曲、アーティストが活きるのか・・・メロディや楽曲全体のメッセージはもちろん、細かな歌詞のチョイス、そのはまり具合、歌い方に対する表現方法等の指示(ディレクション)、アレンジ、どれが欠けてもだめだと思います。『Who’s that』は完成までに紆余曲折あり苦労も多かったですが、最終的に全てが噛み合って完成した瞬間はライブでも間違いなく盛り上がると確信しましたね。
」
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アーティスト:家入レオ |
楽曲:1stシングル『サブリナ』収録 |
M1『サブリナ』 |
——— 冒頭で話題にあがりました『サブリナ』も家入レオさんのライブでは定番曲です。やはり特にライブを意識しての制作だったのでしょうか?
西尾 「間違いなくそうですね。やはりこの曲もイントロの”サブリナ~”のコーラスとエレキギターのリフが楽曲を印象付けていますよね。このイントロは本当にサビ以上の”曲の顔”とも言えるのではないでしょうか?例によってこの曲もボーカルのメロディのみをコウダイに渡して作って貰いました。無数の選択肢がある中でこのギターリフは”もうこれしかないというはまり具合だ!”と思いました。」
——— このイントロでライブ会場全体がジャンプする様は圧巻ですね。
西尾 「そうなればいいな!と強く願って作っていますから、有難いですね。『サブリナ』はCD収録の音源もシンプルなバンド編成でのアレンジという事もあり、CD音源の時点でもの凄いライブ感、ドライブ感がありますよね。バンドメンバーのドラマーさんに”凄くシンプルだけど心が躍るようなグルーブ感がある、これは誰が叩いているのですか?”と尋ねられたくらい、生の感じがあったのだと思います。今は楽器が弾けなくてもコンピューターで音楽が作れるという意見もありますが、ツールとしてコンピュータを使うにせよ、それを扱う作り手自身が演奏の達人でないとこのグルーブ感は絶対出せないと思います。サブリナはギターソロも素晴らしいですね。心を掻き毟るようで、切なくもある。僕には、このギターソロはこれを弾いた三輪コウダイの人間性が凝縮されているように聞こえます。ヴォイスで彼の教え子でもあった家入のデビュー曲になる予定の曲だったので、想いの全てを詰め込んだ正に渾身の1曲だったと思います。それが後のCDセールスやデビュー時に強烈なインパクトを残す結果にも繋がったと確信しています。」
——— ありがとうございました。
http://www.voice-tokyo.com/column/vol06/
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